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先に触れたことの繰り返しになるが、金融庁の「証券市場の改革促進プログラム」において、証券仲介業制度の導入と並んで、証券投資の裾野を拡大するための施策とされているのが、銀行による証券ビジネスの拡大である。
こうした施策が打ち出される一つのきっかけとなったのは、二○○二年五月、当時の柳沢伯夫金融担当大臣が、投資信託の銀行窓販が好調であることやドイツで郵政民営化に際して郵便局の窓口で株式を販売したことで投資家の裾野が広がったと言われているといったことを指摘し、証券販売のチャネルを増やすことで証券投資の活性化が図られるのではないかとの問題提起をしたことである。
確かに、証券会社は一般国民の身近な存在とは言いにくい。
かつての強引な営業手法が原因で敬遠されているということを持ち出すまでもなく、物理的に証券会社の店舗数が少ないため、身近な存在になっていないという現実がある。
例えば、国内最大の証券会社である野村鐙券でも、本支店数は一二八に留まる。
一方、国内最大の銀行であるみずほ銀行は、三行の合併によって発足したという経緯から支店の統廃合を進めている最中ではあるが、二○○二年九月末時点の本支店、出張所数は六六八に上る。
しかも、証券会社の支店は、数が少ないだけでなく、大都市圏に集中している。
これに対して、銀行の店舗は、地方銀行の場合、一県下に一○○支店以上も展開されている例が少なくない。
もちろん、インターネット時代に物理的な店舗の有無は大きな問題ではないといった見方もできないわけではない。
しかし、銀行への期待には、金融ビッグバンによって解禁された銀行による投資信託の窓口販売が、着実に残高増につながっているという裏付けもある(414)。
長引く不良債権問題で銀行のイメージダウンも著しいとはいえ、証券会社に比べれば、まだ一般個人の信頼が厚いとみられている面もあろう。
やや短絡的ではあるが、不良債権処理や公的資金返済の原資を作るために、銀行の収益多様化が叫ばれていることも、銀行による証券ビジネス拡大が必要とされる背景となっているように思われる。
そこで、二○○二年九月、金融庁は、銀行の店舗内に証券会社が専用コーナーを設けて、株式の売買取次業務を行うことを認めた。
いわゆる銀行証券共同店舗の解禁である。
共同店舗は、あくまで銀行と証券会社の店舗が物理的に同じスペースを共有しているというものにすぎない。
取引口座や営業担当者が共通になるわけではない。
顧客に関する情報もみだりに共有化されるわけではない。
顧客が銀行と証券会社の窓口を混同し、実際には証券投資商品なのに元本保証のある銀行預金だと勘違いするといった問題さえ生じなければ、特に懸念すべき点はあるまい。
しかしながら、更に一歩進んで、銀行による株式売買の仲介、いわゆる「株式窓販」を正面から認めるべきかどうかということになると、より慎重な検討が必要であろう。
なにしろ、わが国では、銀行による証券業務は、五○年以上にわたって厳しい制限を受けてきた。
米国でも同様である。
果たして、「銀行が証券商品を取り扱えば市場が拡大する」と単純に結論づけてよいものなのか。
過去の経緯も振り返りつつ、改めて考えてみる必要があるだろう。
ちなみに、厳密に言えば、既に銀行は、株式の売買を仲介することができないわけではない。
銀証分離を規定した証券取引法第六五条は、銀行が、顧客からの要請があった場合に、有価証券の売買のすることになった。
もっとも、この例外規定が認める株式売買の取り扱いは、あくまで顧客からの働きかけがあった場合に限られるもので、金融機関が新規ビジネスとして積極的に取り組むことはできないだろう。
実際に取り次ぎをするとしても、事務コストがかさみ、手数料も、格安のネット証券会社などに比べて格段に高くならざるを得ないものと推測される。
金融庁は、実際の業務方法が不明確だったために業務として手掛ける金融機関がほとんどなかったとして、事務ガイドラインの整備などを進めているが、書面取次業務の拡大から証券投資の裾野拡大へというシナリオは、楽観的に過ぎるように思われる。
さて、銀行による証券業務を厳しく制限した法律の典型例は、大恐慌後の米国で制定された一九三三年銀行法、いわゆるグラス・スティーガル法である。
同法は、一九二○年代に横行した銀行経営をめぐる様々な不祥事に対する反省の上に立ち、主として次の二つの狙いから、銀行業務と証券業務の分離を図った。
第一は、銀行業務と証券引受業務との連携による利益相反の回避である。
すなわち、銀行の融資先の経営が悪化した場合、自行の債権を保全するためにいち早く貸出金を回収し、その代わりに、引受部門が社債を発行させて市中で分売するといった行為に走る危険性がある。
二つの業務の兼営を禁じることで、そうした問題を未然に防ごうとしたのである。
わが国でも、戦後の証券取引法制定にあたって、米国にならって、銀行と証券を分離する制度が導入された。
考えてみれば、当時は、グラス・スティーガル法制定からわずか一五年。
しかも、対日占策の中核を担い、経済制度の改革を主導したのは、一九三○年代の政策理念を信奉するニューの株式保有が理解できるだろう。
銀行経営上のリスクを限定し、経営悪化や倒産を未然に防止するというものである。
銀行式保有が、経営改善の大きな足かせとなっているわが国の現状をみると、こうした懸念は十分にある。
もっとも、わが国における銀行・証券の分離制度は、本来の目的であった利益相反の防止や銀行経営の安定性確保よりも、証券会社の保護・育成を可能にするという機能を果たしたように思われる。
既に触れた、リテール証券ビジネスに関する免許制の下での競争抑制政策と相まって、銀証分離制度は、結果として、証券業界の安定的な発展に寄与したのである。
しかし、この銀証分離政策は一九八○年代に大きく転換する。
銀行による国債のディーリング、次いで窓口での一般顧客向け販売、すなわち「窓販」が認められたのである。
財政政策が大きく転換して国債の大量発行が始まり、銀行に国債を満期まで保有することを強いることが困難になるとともに、円滑な市中消化を進めるためには、証券会社だけでは間に合わないと考えられたからである。
国債は、株式や社債とは異なり、銀証分離制度の背景となった利益相反や銀行経営上のリスクの問題を惹起しないという判断もあっただろう。
その後、保護・育成政策の下で力をつけた証券会社、とりわけ引受ビジネスを中心に寡占体制を確立した大手四社が、空前の利益を上げるようになった一九八○年代後半に入ると、銀行は、業界をあげて証券業務への進出を望み始める。
既得権益を侵されるという危機意識を抱いた証券会社は、銀証分離を規定した証券取引法六五条の死守を唱え、防戦に走った。
一九八五年九月の金融制度調査会制度問題研究会の設置を手始めとした検討は、結局、様々な議論と駆け引きを経て、一九九二年六月、いわゆる業態別子会社方式による銀証相互参入を認める「金融制度改革法」の成立でいったん幕を閉じた。
時を同じくして、米国では、グラス・スティーガル法の撤廃をめざす動きが本格化した。
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